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「あいつは火星にいるんだ」

タイトルは、NHK ウィークリィ・ブックレビュー(12月2日放送)で、船曳建夫 氏(東京大学大学院教授)に紹介されていた『ローバー、火星を駆ける 僕らがスピリットとオポチュニティに託した夢』(スティーヴ・スクワイヤーズ著)の中の一言です。



原著:"Roving Mars: Spirit, Opportunity, And the Exploration of the Red Planet " by Steve Squyres


この本は火星へのミッションの研究代表者を務めた著者が、その舞台裏を綴ったノンフィクションです。NASAの火星へのプロジェクトは、国家事業であっても、実際には資本主義の論理が貫かれた「より良く、より安く、より早く」の激烈な競争の中で勝ち続けなければならない事業だそうです。

タイトな予算とスケジュール。相次ぐ機材トラブル・・・・・ 20年来の夢を託した2台のローバーに襲ってきた数えきれないほどの困難。不可能と思えるような壁をいくつも乗り越えてようやく漕ぎ着けた打ち上げから半年。遙か火星のローバーから、彼のチームの下に画像が送られて来ますが、涙ぐむ仲間達の中でも著者は涙を見せません。その時の思いを彼はこのように書いています。

すばらしい。信じられないくらいすばらしい。でも、目を潤ませたりするものか。僕は沈着冷静なんだ。外へもどって、あと二つのインタビューを受けてからアパートに帰り、冷凍スパゲティを電子レンジにかける。暗くした部屋で下着姿のままソファに座り、スパゲティを食べるうちに、その日のことがよみがえって感激がこみあげてきた。バンカムはいま本当に火星にいる。あいつは火星にいるんだ。涙が堰を切ったように流れた。


まだ読んでいない本ですが、この箇所の紹介を聞いただけで胸が熱くなりました。かぐやを成功に導いた人々には、深く共感できる思いでしょうね。ローバーという器械への、まるで生き物に寄せるような愛の深さ、その実現に苦労した人だけが味わうことの出来る深い喜びの存在を改めて感じると共に、そういう喜びの手の届かなさへの強い羨望も感じました。

by bs2005 | 2007-12-09 08:20 | 忙中閑の果実  

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