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Patriotism - この神聖にして不可侵なるもの

patriotism は日本語で「愛国心」にあたる言葉です。そして、今日はアメリカの独立記念日です。アメリカ人が愛国心を最も鼓舞される日の一つでしょう。最も鼓舞される日と言わずに、その内の一つというのは、メジャーリーグのワールドシリーズやスーパーボウルの開会式、等々も同じ位そうだろうとかなり真面目にそう思うからです。勿論、忘れてならないのは、パール・ハーバー記念日と9・11などの戦争に絡む日も、、、、。

「愛国心」を鼓舞されて戦争に突入し、原爆という苦い形で敗戦を迎えた日本では、指導者層が「愛国心」を持ち出す度に、その意図を巡って批判、論争が起きます。でも、アメリカではpatriotism がそういう形で問われたことは一度もありません。patriotism は素晴らしいもので、それを持たないことは恥ずかしく、道徳的にも弾劾されます。patriotism という概念は疑ってもいけない絶対不可侵のものなのです。

大統領選でも、候補者、およびその配偶者のちょっとした態度、発言を歪曲したり、誇張したりして、相手候補のpatriotism の欠如を問うということが戦術として行われ、有権者の支持率にも、もろに影響します。その攻撃を散々受けたオバマ候補は独立記念日直前の先日、「patriotism」をテーマに演説をしました。その中でpatriotism は、国旗を掲げる等のうわべで判断されるべきではない、軍隊に入ることによって示されるべきとして、若者に入隊を呼びかけました。

武力解決ではなく、まず外交努力を徹底するべきだと訴えた彼、ケニア人の父を持ち、インドネシアで少年期を過ごし、他の候補に比べると遥かに他国に対して公平で冷静な真の国際感覚を持っていると思えた彼ですら、patriotism そのものへの何の疑いもなく、こういう事を言い、その発言が歓迎されてしまうのです。

「アメリカは、神が生み出した、地上で最も素晴らしい国。その素晴らしさに於いて唯一の特別の存在」という考え方は、それを絶え間なく口にするかどうかは個人差がある所ですが、(或る共和党支持のキャスターは番組に出る度に何度も言うので有名です)、多くのアメリカ人の心に共通している認識だと思います。

自分の国に心酔すること自体は素晴らしいことかもしれませんが、私が感じるのは、そういう特別な国であることが世界の客観的事実と思っているようなアメリカのおごりです。地球上の他のどの国でも、その国の人々にとっては自分の国が最も大事で神聖な、特別の素晴らしい国である得ること、どの国であれ、それぞれの国、国民の価値は等価である認識が無いように思えます。

今のイラクの混乱も、アメリカ人兵が何千人もその命を失い、その戦争の為にアメリカ国内が疲弊していることは散々取り上げられますが、イラクの人々の苦しみに言及されたのを聞いたことがありません。アフガニスタンも然りです。

厳密に言えば、一度だけ聞いたことがありました。或る女性のコメディアンがレギュラー出演し、政治的話題も時々取り上げられていた番組で、「イラク人がアメリカに侵攻してくれと頼んだわけではない。我々は勝手に侵入して、何万人のイラク人が命を失う羽目になった」と言ったのですが、彼女はその番組からの降板を余儀なくさせられました。

この発言だけが理由ではないでしょうが、彼女の発言がアメリカ人のpatriotism、プライドを傷つけるものだったことが大きい部分を占めていると、私は勝手に思っています。アメリカの言論の自由なんてこんなものかというのを何度か見てきたからです。アメリカの素晴らしさに疑義を挟むことは、最もpolitically incorrect なことになります。

北朝鮮の拉致問題がよそ事なのは、アメリカという「素晴らしい特別な国」に起きたことではないという感覚もあると思います。本質的に大事なのはアメリカだけ、よその国が大事なのはそれに抵触しない範囲に限るという感覚を色々な場面で感じてしまうのです。

こういう肥大化し、検証されていないpatriotism こそがアメリカの善魔性を生み出し、支え続け、そしてアメリカの世界戦略をあみ出し、今の世界の混乱を招いているように私は思えて仕方ありません。

アメリカがpatriotism というものの相対性を自覚しない限り、アメリカは他国に介入し続け、戦争を仕掛け続け、世界で唯一、核兵器を保持する正当で特別な権利を持つ国、核攻撃すら世界で唯一許される国と思い続けていくのだろうし、世界に平和は訪れないだろうと、patriotism が高らかに謳いあげられる度に、私はある種の絶望を感じてしまいます。


関連過去記事:

 「善魔」
 「善魔の思想を支えるもの」
 「politically incorrect」

by bs2005 | 2008-07-04 23:38 | こんな英語表現  

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