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伝えるべきこと

昨日あるNPOを率いているアメリカ人の男性と夕食の機会がありました。奥様は日本人で、こちらでバリバリ働いておられる方です。お二人は団塊世代です。そのご主人がユーモアたっぷりに興味深いお話をされ、それが心に響くお話ばかりで、人に会って話を聞くことの楽しさ・感動を堪能してしまいました。

事故以来特に、人の話を聞く集中力、気力、記憶力が衰え、正確な再現ではないのですが、核心の部分が少しでも伝えられたらと、頑張って書いてみようと思います。自信はないのですが、、。



彼が率いているNPOでは、子供達とお年寄りを結ぶことを活動の一環として進めているのです。それによって孤独なお年寄りに聞く相手を与えるだけでなく、子供がそこから学ぶことが計り知れないほど大きいからだそうです。特に今はパソコンや携帯に頼って、生の人間と向き合う付き合い方が薄れてきているけれど、そういうものを成長の過程で子供は最も必要としているという意味でも。

人生の知恵だけでなく、伝えるものの幅の広さは学校の授業とは比べ物にならないそうです。また子供は親と子という関係では出来ないような会話もそういう老人達と出来る。それが子供にとっても、老人にとっても大きい癒しになるそうです。

淀みなく沢山話された中で特に感動を受けた話の一つは、退役軍人の話でした。軍隊から帰ってきた人は皆大変なトラウマを背負ってしまう。彼は人間の本来の性質の中には、元々クレージーな人は別として、たとえ命令であれ、人を殺すということを受け入れられないものが、厳として根源的にあるのだと思うと言いました。だから基本的に戦争はすごく間違っているのだとも。

そして、退役軍人というものは、戦争を通過してきたから、その恐ろしさ、バカらしさを嫌というほど知っている。イラクの侵攻にも自分の知る限り、退役軍人は皆、反対した。戦争という手段によって解決しない、それがどういう結果になるか彼らはわかっていたのだと。

ある会での出来事。ある老人に子供達の前で自分の戦争体験を話してほしいと言ったところ、その老人は怒り出したのだそうです。そんなことをこんな場で何故自分が話さなければならないのか、侮辱だと。

その時、その場に車椅子で他の人に助けられて来ていた少年が居ました。その少年は、「じゃ、僕達は誰から話を聞けばいいんですか?ハリウッドからですか?」と訊きました。

それを聞いた老人はハッとして、自分達が体験を伝えていかない限り、戦争の本当の姿は伝わらない、ハリウッド映画のかっこいいシーンなどを見て、戦争の真の姿を知らずに、戦争に簡単に進んでしまう世代を作ってしまいかねない。自分達が語っていかなければいけないのだと悟って話し始めたそうです。

もうひとつの話も退役軍人の話です。

あのノルマンディーの上陸作戦で一番先に上陸した兵達の一人でした。ほんの数秒の間に彼の仲間は皆撃たれ、亡くなりました。その一団の中では、彼だけが奇跡的に助かったのだそうです。

彼は自分だけが助かったことを戦友達に対して後ろめたく思って来ました。"Why me?"と思い続けて来たそうです。戦争の悪夢が彼のトラウマとなって彼を苦しめ続けてきました。それは彼の人生が終わりに近づいてホスピスから自宅に戻ったときも変わりませんでした。いやむしろもっと辛いものとして彼を苦しめていました。

その奥様から、自分一人の力では苦しむ彼を安らかにして上げられない。そのホスピスに来ているボランティアの中から、家に来て助けて欲しいという希望が出されました。そのとき、私が行きますと答えたのが15才の少女でした。その子には荷が重過ぎるということで、他に二人の大人も参加しました。 

初め、老人の心をなかなかほぐすことが出来ませんでした。そのとき、その少女が「おじいさんは私くらいの年のときはどんなことをして過ごしていたの?その頃はどんな社会だったの?」と訊きました。

そこからおじいさんはやっと戦争前の楽しい思い出を語り始めました。それはどんどんふくらんでもっと幼い頃も含めて、おじいさんの若いころのありとあらゆる話になって行きました。それは家族も親戚も知らない話でした。

それで、それからそのおじいさんの話を聞くために、家族、親戚も集まってきて大きいグループになりました。皆が興味深く聞くその集まりが何度も持たれ、その中で家族、親戚はおじいさんの人生に感謝を伝えるようになりました。おじいさんはどんどん安らかな表情になって行きました。

ある日、そのおじいさんは初めに訊いた少女に、「自分があの戦争を何の為に戦ったのか分かったよ。君たちのためだったのだってね。」と言ったのだそうです。それから間もなく、そのおじいさんは安らかに永遠の眠りについたそうです。

長くなりましたが最後にもうひとつ彼の話したこと。

日本人はあの敗戦の無惨な廃墟の中で、絶望に打ちひしがれることなく、その只中から雄雄しく立ち上がって、すさまじい困難に耐えて、あそこまでの奇跡的復活をなしとげ、平和を守る国を作り上げてきた。

その努力、志の高さ、勇気、不屈の精神に支えられたその経験を、その世代は充分に若い世代に伝えていないのではないか。それを伝えていくことがとても必要なのではないか。自分達の国がそういう国民の国であるという誇りをしっかり伝えてこなくて、そういう人々の子孫なのだという誇りがないことと、今の若い世代の問題は無縁ではない気がする。

廃墟から立ち上がった世代は、自分達の歴史を自分の言葉でしっかり子孫に伝えるべきではないのか。子孫もしっかり聞こうとしてきていないのではないか。その話を受け継ぐ前にその世代が亡くなってしまったら、それはとてつもない大きい損失になる。もうあまり時間が残っていないのではないかと。

今、きな臭くなっている日本、あらゆる場で倫理も崩れつつある日本、私達は何を守り支え育てて来ようとしてきたのか、それを見失いつつある日本、、、廃墟の中で立ち上がった日本人の初心に、今こそ戻るべきなのではと彼の話を聞いていて強く思いました。

by bs2005 | 2007-06-17 00:12 | 忙中閑の果実  

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