イーストウッド監督、アメリカで『硫黄島からの手紙』について語る

昨夜、こちらの超人気トーク番組「デービッド・レターメン・ショー」に彼が出演しました。『硫黄島からの手紙』のキャンペーンのようでした。レターメンはこちらで何十年も人気のある、誰でもその名を知っているテレビ・タレントで、日本の方も名前だけはご存知かも知れません。



彼の番組では初めに色々ジョークを言ったり、いろいろの他愛ないコーナー(その他愛なさが魅力なのですが)があって、後半は、大物のゲストが出ます。俳優で言えば、アカデミー賞で見かけるような人、歌手でいえば、過去、あるいは最近大ヒットを飛ばしたような人です。

普通一晩、二組が出ます。出てくる人は最近の作品をひっさげて来ますから、基本的にキャンペーンの為に出てくるのだと思います。『父親たちの星条旗』のキャンペーンにではなく、『硫黄島からの手紙』のキャンペーンに出て来たのが印象的でした。最近の他の映画も、彼自身がキャンペーンの為に出ることはなかったようです。これの為に出てきたことに、感謝の念を覚えました。『父親たちの星条旗』が大きいヒットにならなかったので、危機感を覚えてだったのかもしれませんし、他の番組で既にそちらのキャンペーン出演をしたのかどうかまで分りませんが、、。

レターメンのショーをいつも見ている訳ではないのですが、彼がイーストウッドにこうやって直接会うのは初めてみたいなことを言ったら、イーストウッドが、どこかのコメディ・ショーを見に行った時会ったと答えていたので、キャンペーンの為ですら、彼がこの番組に出るのは大変異例なことなのだと思いました。彼の映画の全てがヒットしてきた訳ではないし、今までは出演俳優が出ていましたので、今度の映画に彼がそれだけ力を入れていたことだけは間違いないと思います。

番組の前半で、ゲストの予告をしますが、イーストウッドと伝えたときは、観客はすごく熱狂して、変わらぬ人気を感じました。

レターメンは『硫黄島からの手紙』が今までとは全く違う角度から撮られていること、とても感銘を受けるものであること、『父親たちの星条旗』と違い、日本側から撮られていて日本語の映画(英語の字幕入り)であること、同じ戦争を両方の角度(それぞれの立場に立てばどちらも正しい角度)から撮られていることなどに強い印象を受けたと紹介しました。

立場を変えればどちらも正しいと彼が言ったことが印象深かったです。あの戦争はアメリカ側だけが正しいと言うのが普通で、あまり相手側に立たないのが普通の感覚なのです。相手側の立場に立つ発想をこの映画がもっと多くのアメリカ人の中に生み出してくれれば、興行的にはどうでも、この二つの映画は大成功なのだと思います。

イーストウッド監督はいつもと変わらぬスマートさで、さりげなく、にこやかに自分の今までの歴史や今度の映画を、ユーモアを交えて語り、観客を沸かせていました。そして、この二つの映画で一番訴えたかったことは、国は違っても戦争に駆り出された人々は、皆、そんなところには居たくないのだ。愛しい人々の傍に居たいのだ。戦争は必要のないものだということを伝えたかったと静かにさりげなく語りました。

日本の人にとっては当たり前に聞こえることかもしれませんが、アメリカの人にとっては必ずしも当たり前ではない見解です。イスラムの過激派と同様、辛くても戦わなければならない聖戦というものがあると信じているアメリカ人は多いのです。正義の戦いがあると。それを固く信じさせてしまったのは、ナチス・ドイツと帝国ニッポンなのですが。

本土が焦土と化した経験がないので、戦争の本当の悲惨さ、辛さを肌身で感じていないことも大きいです。一番感じているのが、パールハーバーなのですから、日本人に比べたらその数十分の一も戦争の悲惨さを骨身に滲みて感じていないだろうと思います。ベトナム戦争は大分感覚を変えたとは言え、所詮、遠い所での戦いでしたから。日本人も(犠牲者の家族を別にして)9・11に関してはアメリカ人の痛みの十分の一も感じていないように、自分の土地で直接体験するかどうかは大きい違いを生むと思います。

あの映画を興行的には成功しないと分っていて、そういう考え方の多いアメリカで、日本側の映画のキャンペーンの為に出演し、こうしたメッセージを彼の言葉で語った監督、両方の側から見ることの大切さを通じて両方に普遍的に存在するものを訴えた彼に、改めて尊敬の念を覚えました。同時にこの二つの映画を作った彼に感謝の気持ちで一杯です。彼の語った言葉が見ていた人達の心に届いて、多くの人が見に出かけて欲しいです。

こちらでは12月20日に限られた都市で(全米一斉公開ではなく)封切りになるそうです。普通週末の金曜からなので、週の半ばに限られた都市で封切りするのは、試験的にまず限られたところで、それから少し遅れた週末に全国一斉公開になるケースが多いのですが、その反響によっては、そのまま限られた都市での上映だけに終わってしまうことも多いので、どうなるか見守って行きたいです。
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by bs2005 | 2006-12-17 02:13 | 日米雑記  

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