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不器用の美 ー 皇帝ペンギンに捧げる

ペンギンは鳥だ だけど飛べない

手もない 足はあるけど 殆どない短さで 器用に使えない


ペンギンは海の中で泳ぐ 食べ物は海からしか得られない

だけど魚じゃないから

海の中で 卵を産んだり 育てられない


それで100キロも 氷原を歩く 

海から離れた 餌もない 土地へ

氷が厚くて そこなら溶けないので 卵を育てられるという理由だけで

よたよたと 二十日あまりも何も食べずに 

何百羽も 一列になって行進する 

巡礼者のように




やっとたどり着いた 自分も産まれた その地で

ペンギンはたった一羽の 相手を見つけ たったひとつの卵を産む

次の卵の時は また違う相手であっても 

その卵の自立までは あくまでも真摯に 一対で 子供を守る



そうして産まれた卵を 雌は雄に 極寒の氷の上で渡す

もたもたしていると 卵は凍って 死んでしまう

手も 器用な足もない ペンギンには大仕事

それがうまく行かないと 夫婦の契りは それで終る



全てのエネルギーを使い果たして 何も食べていなかった雌は

産卵直後に 海に向かって 餌を食べに戻って行く

今度は氷原が大きくなっているので 150キロ以上の道のり

飢えて弱った身体で その行進に耐えられずに 途中で死ぬものもいる



雌が出かけたあと  雄はさらに雌が戻ってくる間の二ヵ月

何も食べずに ただひたすら 卵を抱いている

空腹に耐え兼ねて 卵を捨てて 海に向かうものはいない



猛烈な吹雪の中で 身を寄せあって ただ極寒に耐える

一番外側の仲間を 次第に中に入れて 交代で暖を取りながら

でも耐え切れずに 死んでしまうものもいる

ちょっとした移動の時に 卵をつかみそこなって

死なせてしまうものもいる



そうして ひたすら ひとつの命を守り 雌を待ち続ける

雌が数ヵ月ぶりに戻ってくると やっと交代できる

海の中で 天敵に襲われて 戻ってこない雌もいる

そんな事は知らずに 交代を ひたすら 待ち続ける

交代しても 疲れ果てて 海まで戻れずに 死ぬ雄もいる



そうやって 交代しながら ひたすらに卵を守るけれど

やはり死んでしまう卵もある 

卵からかえっても 色々な理由で 死んでしまう

あんなに 必死で 命懸けで守ったのに あっけなく



こうやって ただただ壮絶な生を 不器用に 不器用に営む 

そんな皇帝ペンギンの姿は 神々しく 厳粛だ


彼らは人なつこい 戦うことに使うエネルギーはないから

ひとつの命を守るためだけに 全ての力を注いでいるから


人間が霊長類なんて 誰が言ったのだろう

人間は 皇帝ペンギンの 足元にも及ばない



ペンギンは ただただ 全てを受け入れ

何も破壊せず 何も殺さず ひたすらに 不器用な生を全うする

彼らにかなう人間なんて 居ない



(この文は、"March of the Penguins"という映画を極寒の南極で、撮影し、作り上げた人々にも捧げます。)

by bs2005 | 2005-09-11 00:10 | 徒然の瞑想  

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