不器用の美 ー 皇帝ペンギンに捧げる
2005年 09月 11日
手もない 足はあるけど 殆どない短さで 器用に使えない
ペンギンは海の中で泳ぐ 食べ物は海からしか得られない
だけど魚じゃないから
海の中で 卵を産んだり 育てられない
それで100キロも 氷原を歩く
海から離れた 餌もない 土地へ
氷が厚くて そこなら溶けないので 卵を育てられるという理由だけで
よたよたと 二十日あまりも何も食べずに
何百羽も 一列になって行進する
巡礼者のように
やっとたどり着いた 自分も産まれた その地で
ペンギンはたった一羽の 相手を見つけ たったひとつの卵を産む
次の卵の時は また違う相手であっても
その卵の自立までは あくまでも真摯に 一対で 子供を守る
そうして産まれた卵を 雌は雄に 極寒の氷の上で渡す
もたもたしていると 卵は凍って 死んでしまう
手も 器用な足もない ペンギンには大仕事
それがうまく行かないと 夫婦の契りは それで終る
全てのエネルギーを使い果たして 何も食べていなかった雌は
産卵直後に 海に向かって 餌を食べに戻って行く
今度は氷原が大きくなっているので 150キロ以上の道のり
飢えて弱った身体で その行進に耐えられずに 途中で死ぬものもいる
雌が出かけたあと 雄はさらに雌が戻ってくる間の二ヵ月
何も食べずに ただひたすら 卵を抱いている
空腹に耐え兼ねて 卵を捨てて 海に向かうものはいない
猛烈な吹雪の中で 身を寄せあって ただ極寒に耐える
一番外側の仲間を 次第に中に入れて 交代で暖を取りながら
でも耐え切れずに 死んでしまうものもいる
ちょっとした移動の時に 卵をつかみそこなって
死なせてしまうものもいる
そうして ひたすら ひとつの命を守り 雌を待ち続ける
雌が数ヵ月ぶりに戻ってくると やっと交代できる
海の中で 天敵に襲われて 戻ってこない雌もいる
そんな事は知らずに 交代を ひたすら 待ち続ける
交代しても 疲れ果てて 海まで戻れずに 死ぬ雄もいる
そうやって 交代しながら ひたすらに卵を守るけれど
やはり死んでしまう卵もある
卵からかえっても 色々な理由で 死んでしまう
あんなに 必死で 命懸けで守ったのに あっけなく
こうやって ただただ壮絶な生を 不器用に 不器用に営む
そんな皇帝ペンギンの姿は 神々しく 厳粛だ
彼らは人なつこい 戦うことに使うエネルギーはないから
ひとつの命を守るためだけに 全ての力を注いでいるから
人間が霊長類なんて 誰が言ったのだろう
人間は 皇帝ペンギンの 足元にも及ばない
ペンギンは ただただ 全てを受け入れ
何も破壊せず 何も殺さず ひたすらに 不器用な生を全うする
彼らにかなう人間なんて 居ない
(この文は、"March of the Penguins"という映画を極寒の南極で、撮影し、作り上げた人々にも捧げます。)
by bs2005 | 2005-09-11 00:10 | 徒然の瞑想